Ceysson & Bénétièreは、アメリカ人アーティスト レイチェル・タラヴェキアによる日本初の個展「Heaven Sent 」を開催いたします。
本展において、タラヴェキアは鑑賞者を、現実の親しみと幻想の狭間を漂う夢のような世界へと誘います。彼女は、安らぎの象徴である郊外の家を、記憶・空想・感情が交錯する超現実的な舞台へと変貌させます。ホラー映画、アニメ、ビデオゲーム、そしてミッドセンチュリー・デザインから着想を得て、日常的な家庭空間を心理的変容の場として再構築しています。
このシリーズは、デジタル空間での探索から始まりました。タラヴェキアはネバダ州リノ郊外の家々をZillow(不動産サイト)のリスティングで見つけ、まるで静かな傍観者のように3Dツアーの中を漂いました。こうしたオンライン上の室内風景が、彼女のコラージュ絵画の基礎となり、ヴィンテージ雑誌のページ、旅行写真、ファンタジーゲームの断片が重ね合わされています。その結果生まれたのは、懐かしさと不安が同時に漂う魅惑的な世界です。
タラヴェキアの創作の核には「Worldbuilding(架空の世界を構築すること)」があります。3人の兄の中で育った彼女は、ジェンダーによる経験の違いに敏感であり、その緊張感が作品全体に通底しています。『ファイナルファンタジー』『大神』『キングダムハーツ』といったビデオゲームは、彼女にとって初期の逃避と変容の手段でした。作品には、宙に浮かぶ武器やアイコン、力の象徴など、そうしたゲーム的モチーフが繰り返し登場します。
本展の作品群は、聖なるものと俗なるもののあいだを行き来します。《Un Petit Coup 》では、1980年代の浴室が夕陽の光に包まれ、ディスコボールの反射が壁に踊り、真珠を抱くアコヤガイが不穏さの訪れを予感させる静謐な瞬間を描きます。《Suitehearts 》では、ハート型のベッドが鉄の処女へと姿を変え、カトリックの聖遺物を思わせる宝石を纏った2体の骸骨が、炎に包まれながら永遠の抱擁を交わしています。
家の内部がますます迷宮的に変化するにつれ、空間は夢のような変容の舞台へと進化します。
《Carbonated Blood 》では、吸血鬼の棺が高校のタイル張りの浴室に浮かび、《Transformation Sequence 》では、葬儀と美容の儀式が融合し、蝶に囲まれた宝石の棺が『セーラームーン』の変身シーンの最中にあるように描かれています。展示のクライマックスとなる《One Winged Angel 》では、「最終決戦」を思わせるゴシック聖堂の建築がビデオゲームの世界観と融合。ステンドグラスにはトランプのチップやハート、スペードが輝き、パイプオルガンは『ファイナルファンタジーVII』や『魔法少女まどか☆マギカ』を想起させます。
素材面でも、タラヴェキアの作品は華やかでありながら精緻です。ラインストーン、真珠、レース、鎖などが装飾的に用いられつつも、すべてが秩序立って配置されています。その鮮やかな色彩と光沢の背後には、抑制と過剰、身体と欲望、そして感情の緊張が潜んでいます。
「Heaven Sent」において、鑑賞者はプレイヤーとして迷宮を進み、家庭の安らぎが対峙の場へと変化していく過程を体験します。幻想と恐れの狭間に漂うタラヴェキアの世界は、美しくもどこかに取り憑かれたような、そして深く人間的な――現実と想像の双方にまたがる空間を生きるとは何かを問いかけています。














