※ 夏季休館日:2025年8月10日(日)〜8月18日(月)
「シュポール/シュルファス 」(Supports/Surfaces、支持体/表面)は、批評家や歴史家、ギャラリストに名付けられた運動ではなく、理念を共に考察し、既成概念にとらわれない展示のあり方を模索し、実践していたアーティストたちの集まりです。
「シュポール/シュルファス 」に関わっていたのは、主に地中海に面した南フランス出身のアーティストでした。André-Pierre Arnal(アンドレ=ピエール・アルナル)とVincent Bioulès(ヴァンサン・ビウレス)、Louis Cane(ルイ・カーヌ), Daniel Dezeuze(ダニエル・ドゥズーズ)、Noël Dolla(ノエル・ドラ)、Toni Grand(トニ・グラン)、Bernard Pagès(ベルナール・パジェス)、Patrick Saytour(パトリック・セトゥール)、Claude Viallat(クロード・ヴィアラ)が挙げられます。
Marc Devade(マーク・ドゥヴァド)と André Valensi(アンドレ・ヴァランシ)、Jean-Pierre Pincemin(ジャン=ピエール・パンスマン)はパリで生まれています。
「Supports/Surfaces シュポール/シュルファス 」という表現を考案したのはヴァンサン・ビウレスで、1970年9月に開催されたグループ展のタイトルとして初めて用いられました。この展示は、パリ市立近代美術舘に設立されたARC(Animation Recherche Confrontation 活動・研究・照合)によって、ピエール・ゴディベールの指揮のもとで企画されています。ビウレス、ドゥヴァド、ドゥズーズ、セトゥール、ヴァランシ、ヴィアラとパジェスの作品が挙がっていたのですが、パジェスは開催前にこの企画から降りています。
「シュポール/シュルファス 」の理念は、政治哲学、精神分析、革命的社会主義の要素を取り入れつつ、アメリカ中心のアートシーンに抗うという野望を共有しています。そのため緻密なコンセプトが立てられ、既存の美的価値に挑むような作品が生み出されています。型破りな素材を取り入れ、創作のプロセスに焦点をあて、美術館やギャラリー以外での場所や野外での活動、また自己出版などに取り組み、新しい展示方法を開発しています。
1971年、ビウレスとカーヌ、ドゥヴァド、 ドゥズーズは『Peinture – Cahiers théoriques/ パンチュール カイエ・テオリック(絵画 理論的考察)』を』を創刊しました。この雑誌は1985年に廃刊になったのですが、急進的な政治観と、妥協を許さないモダニズム美学が大胆に交わり、白熱した当時の言論活動を物語っています。
例えば1974年4月号では、グリーンバーグのエッセイ「モダニスムの絵画」(1961年)の翻訳が掲載されるかたわら、ソレルスの論考「マテリアリズムについて」にルイ・カーヌが賛辞を贈っています。
「シュポール/シュルファス 」の影響力が国内でも増すにつれて、それぞれのアーティストが単独で独自の活動に力を入れるようになります。それでもグループの礎であった反骨精神は今も彼らの創作を感化し続け、当時の言論よりさらに精度を高めた作品を生み出しています。
そして現在、「シュポール/シュルファス 」のアーティスト一人一人がそれぞれのやり方で、 閉塞した近代美術の新たな可能性を見出すべく、絵画への問いを追求し続け、根本的に倫理的な美学を模索しています。ルイ・カーヌは「必要性を感じない」という言い回しを通してこうした批判精神を貫き、生涯にわたりこの表現を使っていました。またセトゥールは「必要性」を信条とし、リサイクルされた素材やフォルムだけを扱っています。そしてヴィアラにおいては、モチーフそのものがメッセージとなるのです。
そしてメンバー全員が重きを置いているのが、技巧を拒み、素材のあり方に沿って作業し、行きすぎた精製を避けるということです。
芸術が息を吹き返すために、芸術の死を宣言しなくてもいいということを「シュポール/シュルファス 」のアーティスト達は数十年にも渡って証明してきました。そこが他の前衛芸術と一線を画す点かもしれません。
Rachel Stella, 2025年 3月





















